先日お話をうかがった経営者の方が開口一番、
「正直、ビジョンとか考えてないです。目の前のことを回すので精一杯で・・」
口調と表情から、全く考えてないというのではなく、ただビジョンを自ら語ることに少し自信がないというか、何となく照れ臭ささを感じられているのではと受け止めました。
ただそうも言ってられません。組織として事業を行う限り、ビジョンを示すことは必須事項です。これこそが、トップである経営者が果たすべき最も重要な役割の1つです。
皆が同じ方角を向いて仕事をしている組織は勝ちます。
事業組織のすべての活動が、1つの方向性へと力が合わさっている状態。
この状態を導くためには、明確なビジョンを描き、それを組織全体に示すことが必要です。
そして、これこそ組織のトップたる経営者が持つ最重要「機能」の1つなのです。
では、ビジョンを示せばあとはうまく組織が動き出すかというと、もちろんそうではありません。どれだけ明確にビジョンあるいは戦略的方向性を打ち出したとしても、それがそれぞれの部門や課などの現場の活動レベルまで浸透して実行されていかなければ、組織全体の目標を達成することは出来ません。
これは、様々な事業活動の状況・結果を数値化して表したもの。
ビジョンという未来の姿を達成するための日々の活動が、うまく進んでいるかを必要なものを数値化してマネジメントしようということです。
目標をいつも達成できない組織の特徴の1つは、狙っている姿を数値で表現できていないという点にあります。
一方、目標をきっちりクリアーしてどんどん成長していく組織は、必ずと言っていいほど適切なメトリクス(指標・目標数値)を設定し、経営状況、事業活動状況を定期的に把握し、的確なタイミングで対策を取れる仕組みを持っています。
※ 事業活動の状況を数値で捉えることの重要性は、以前のコラムでもお話しました。
⇒ 「数値はコミュニケーションツール!」
適切なメトリクスを用いて、組織の事業活動を正しい方向にドライブする仕組みを設定することを『メトリクス・マネジメント・デザイン (MMD)』を私は呼んでいます。
このMMD導入がうまくできている組織はとても少ない気がします。
うまくできていないケースは、大きく2パターンに分かれます。
1つは、もともと数値化するという習慣がなく、なんでも概念的な議論で何でも終わらせてしまっているパターン。その結果、狙い・目標も曖昧、担当責任者も曖昧で、「できたらいいね!」という雰囲気が漂っている組織。
もう1つは、今後は逆にあまりにも多くのメトリクスを選出し、すべてを管理しようとして制御不能に陥っているパターン。概念的な正しさだけで議論し「これも必要、あれも大事・・」と網羅性を追求し、人の注意力(アテンション)には限界があることを分かっていない。結果、沢山のメトリクスを頑張って設定したものの、アテンションを徐々に失い、形骸化したメトリクスのレポーティングだけが継続されていく組織。
ちなみに、全社レベルで扱うメトリクスで言うと、多くても10-12個くらいで留めておくべき。たとえば、「オペレーション効率」、「顧客体験」、「財務結果」の3カテゴリーからバランスよく選び、四半期ごとにメトリクスの継続を見直しをし、時々の優先課題に応じて選出をし直す。
また、全社レベルだけでなく、組織の各レベル(部門、課)でも同じようにメトリクスを設定して、リーダーはPDCAを回して各組織をマネジメントしていく仕組みをつくること。
このPDCAを回す「リズム」というのも実はとても大切で、週次で回すもの、月次で回すものも必ず確認してことがポイントです。そして、各メトリクスには担当責任者を必ず1名のみをアサインし、定期的に状況を共有する場(定例ミーティングなど)を公式にセットしておくこと。各レベルのリーダーがPDCAをリズミカルに回せる仕組みを持つこと、これが常に目標と達成しどんどん成長していく勝てる組織の重要な要素です。
まとめると、
まず「我々はどの山に登るのか」「どのようなスピードで登っていくのか」ビジョンを示す。次に、そのビジョンを達成するためには何をどうするべきか。そのビジョンが示すところは、自分の担当業務にとって、何を意味し、自分たちは何を期待されているのか。何を優先すべきなのか。これらが分からなければ、組織の各部門、各人は自分の理解で都合よい方向に力を注いでしまいます。そのためにメトリクスを選出し、その数値の目標値を持って、各現場のリーダーがPDCAでマネジメントしていくことが必要です。
ビジョンとメトリクスで組織のグリップをしっかり握ること、このことが目標に向けてドライブしやすい事業組織を形成していきます。