最近「ビジネスモデル」という言葉が流行っていて、
このキーワードでさまざまな書籍などが出版されています。
ただ、そのビジネスモデルの議論の中で、
事業の仕組みを考える上でとても重要な観点が、
あまり強調されていないという印象があります。
その観点とは、自分の事業が、「企画・見込型」あるいは「受注・請負型」なのかという区分です。
経営者は、この2つをしっかりと意識して区別しておかないといけません。
「企画・見込型」のビジネスというのは、売れるかどうか確証はないが、まず商品を企画し、作ったものを「売る」事業です。これは、商品の数量も価格も自社で決定できるので、うまくいくと大きく儲けが得られる。その一方、売れなければ在庫などで大損するリスクが高い。
「受注・請負型」のビジネスとは、既に売れることが確定しているものに対して、商品の生産・労務提供をする事業です。こちらは、数量も価格も得意先が決定をするため、独自技術などで強い差別化要素を持った交渉力のある会社でない限り、基本的には大きく儲けることができない事業タイプです。
両者の特徴をそれぞれ挙げると、
<企画・見込型>
- 顧客は「不特定多数」
- 「商品」が事業の生命線であり、商品が悪いと繁栄できない。
- うまくいくと大きく儲けることができる体質
- 生産過剰、不良在庫のリスクが高い
- 商品の価格、生産・仕入数量を自分で決められる
- 新商品・市場拡大で事業成長
<受注・請負型>
- 顧客は「特定少数」
- 「得意先」が事業の生命線であり、得意先の要望に合わせて、形のない商品(品質・安心)を売る事業
- 価格は相場や得意先の主導権で決まり、生産数量は得意先が決定し、受注した数量だけを作る
- 新規得意先獲得、得意先への入り込み度拡大で事業成長
この2つのタイプによって、事業安定・成長への取るべき課題が異なります。
企画・見込型であれば、まず販路を散らすこと(1つの販売チャネルに依存しない)が重要課題の1つ。さらに、商品開発を進め、単一商品でなく、いかに商品の大きな柱を複数確立するかが事業の安定・成長への重要な課題。
受注・請負型では、製品や納期厳守などの「オペレーション品質の維持・向上」と業務の自動化・効率化による「単位あたりの利益向上」が課題。そして、安定性の確保のために、得意先を散らすことも重要な課題の1つです。
現在、自分の会社は、どちらのタイプのビジネスをしているのか、あるいはどちらに重心がかかった事業構造になっているのかをまず把握してください。その上で、事業の拡大可能性とそれに伴うリスクとのバランスを考え、両者の比率を調整していくことがとても大切になります。
たとえば、弊社のクライアントであるシステム開発関連の会社は、創業以来、「受注・請負型」のビジネスをしていました。得意先の1社が売上げの70%以上を占めているという状態でした。そこで、まず少しづつ得意先を増やし、1社にのみ依存しない得意先比率を図ると共に、自社企画の商品を開発し、より利益率の高いビジネスも画策し、会社全体としての成長を図り、成功しています。つまり、「受注・請負型」のビジネスで安定化を図ると同時に、「企画・見込型」のビジネスを仕掛け、事業成長を図ったということです。
その逆で、同じようにあるWeb系のシステム関連の会社では、自社企画のサービスを展開しながらも、そのサービスの開発・運営で培った技術を基に、システム開発の「受注・請負」のビジネスも行ない、全体としての収益の安定化を図っています。
このように、「企画・見込型」と「受注・請負型」の2つの事業タイプのバランスを取るというのがまず1つあります。 さらに、双方の長所・短所を融合させる新たな事業モデルを検討することも可能です。
分かりやすい例でいえば、「本」を商品とした場合の「出版社」と「印刷会社」の事業タイプです。
本来的には、出版社は「企画・見込型」で、売れれば大儲け、外れれば大損するリスクを負う。一方、印刷会社は「受注・請負型」で、出版社より発注があった数量を製作し、その分の利益を確実に得る。この2つのタイプの長所・短所をIT技術の助けによって、ある程度統合することができます。
たとえば、オンデマンド印刷を活用し、最終顧客(読者)からの受注と製本プロセスを統合すれば、在庫リスクを廃除することはできます。
(もちろん、単価当たりのコスト増や最終顧客への納品リードタイムは増えるので、全ての顧客・商品には機能しない。)
同じような仕組みで言えば、パソコンやサーバーなどを製造・販売するデルが良い例でしょう。2つの事業タイプの長所・短所のジレンマを上手くIT技術を駆使して統合されたビジネスモデルを確立し、莫大な利益を得ることに成功しました。
このように、自社がどちらのタイプのビジネスをしているのかをまず意識して、それぞれの特徴から、成長課題を考える観点を持つ事は、経営者としてとても重要です。そして、両者の冒険性・安定性・危険性・実現性などから、両事業タイプのバランスを考え調整する、あるいは、双方のジレンマを統合・解消できる事業のやり方はないかを検討するとよいでしょう。